田舎町の豊さと貧しさ

 スーパーで2年間、働いた。

 

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「お金、よろぴく」と言われ、早いリタイヤでのんびり生きていたわたしは目の前が真っ暗になった。

つまり、息子が大学院を選ぶにあたって、道内ではなく道外に決めた瞬間なのである。 

同じ旧帝大とはいえ片方の院はトップだ。仕方ない。わたしの母はそれを聞いた時「まぁ…そんな地の果てまで…」と言った。いやいやどちらかと言えば、こっちが地の果てである。

下の息子は仙台の青葉山に建つ大学の学生だったし、二人分の生活費を出す余裕はなかった。

 息子によれば、本当は何とかなったのだが、奨学金の申し込みに不備があって、お金が足りなくなる、と言う。

 

それでわたしは働き出した。本屋か雑貨屋で迷ったが、大好きな雑貨屋さんに決めた…その雑貨屋はスーパーが直営しており、わたしはスーパーの店員になった。

 

 ちょいと話はズレるが、、

下の息子が大学に入学する時、わたしは仙台まで出かけて彼の生活環境を整えた。レンタカーで買い物などしたのだが、仙台は都会で、ビル群が高かった。

「ビルが高ーい!」と思いっきり顔を仰向けて感嘆してると、息子が「受験に来た時、タクシーを相乗りしたんだけど、僕も思わず、ビルが高い!と言ったんだよ。そしたら相乗りの相手に、一体…どこから来たの?と聞かれたよ。」

「相乗りさんはどっから来たん?」

「大阪だと言ってた。」

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上の息子はつつがなく地の果て?の安アパートに落ち着いたろうと安心していたら、電話がかかってきた。

「寒くて寒くて3日間よく寝られなかった。」

「ストーブ、無いんだ?」

「ない。…エアコンはあるんだ。もしやと思って調べたら、エアコンって暖房も出来るんだ!!知ってたぁ?!!」と騒いでいる。

 

 まっ、かように田舎者親子のわたしが、スーパーに勤め始めたばかりのときは、気が滅入ってしょうがなかった。早めに出勤し、車のなかで、マイボトルからコーヒーを飲み、タバコをふかし、重い腰を上げて仕事に向かった。

しかし、仕事はどんどん面白くなる。客層を考え、商品を発注し、ディスプレイする。可愛い物ばかりの商品を可愛く可愛くラッピングする楽しさ!

仕事に余裕が出てくると、周りもよく見えるようになる。売り場は違うが、ある女性がとても仕事が出来ることも見えてくる。彼女には創造力があった。ある日の、休憩時間、彼女は値下げされたスカートを鏡の前で自分の腰にあてて見ていた。

それはものすごく似合っていたし、おまけに、1万円だったので、わたしは大いに勧めた。しかし、結局、彼女は買わずにこう言った。

「これでお米を買わなくちゃならない」と。

よくよく事情を聞いてみると、彼女はシングルマザーで子供を3人、一人で育てていた。

絶句した。なぜなら、スーパーの給料は10万円そこそこなのだ。10万円で4人家族が暮らしている。

スーパーの構成員というのは、社員は十数人、そして数百人のパートである。スーパーは安月給のパートたちが回している。

そして、パートの女性たちは、家のローンのためとか、学費のためとか、そういう人たちなんだろう、と思っていたのだが、シングルマザーで子育てしている人が多くて、これもわたしはびっくりしたのである。

しかしここは田舎町だ、家は持ち家という人も多く、親戚が野菜や魚を差し入れてくるのだと言う。10万円でなんとなるのだ。彼女たちは闊達で明るい。

 

一年が過ぎた頃、息子が奨学金が上手くいったから仕送りはもうイイよ、と言ってきた。うれしかったが、いくらなんでも、もう一年くらい頑張ろうと思い、結局2年間、わたしは働いた。

わたしが辞める頃には、そのスーパーは色々な制度を導入し始めていて、誰でも試験で資格を得て、そうすれば、給料が上がり、歳をとっても、指導員として働ける、という。

早速勢い込んで、彼女に試験を受けるように言った。

ところが、彼女は、尻込みするのだ、試験に絶対、受からない、と言う。それでも諦めきれないわたしは、上司か気さくそうな社員をつかまえていろいろ教えてもらいなさい、と子供がイヤイヤしているような彼女に念を押した。

そうしてわたしは仕事をやめた。

 

 

とても好きなカフェ

「映画どころじゃなかったよ!」と子供が言ったのは、こんなカフェだった。  

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ここはわたしのお気に入りのカフェ 。老若男女がゆったりできる。席と席の間が広いので子供連れもok。トイレは車椅子で入れる。つまり、ここはユニバーサルデザインなんだな。あ。奥の曇りガラスの向こうが喫煙スペース!えへへ。

 

 

 例によって写真を撮り忘れて食べちゃったが…なんだろ?わたしは食い意地が張ってるのかな?すぐ食べたいんだよねぇ。

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 アサリのパスタ。☝️貝の身が肉厚でふくふくしてたので最初に食べちゃった。

 

 こちらは⭕️!食べかけではない。ナンで野菜や生ハムを包んだもの。

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 美味しいんだけど、食べずらいったらない。

 

あ。冒頭の話。

昔、映画好きが集まって、自主上映のような事をしていて、付き合いで、家族で観にいっていた。既に観た映画がかかることもあったが、「海を飛ぶ夢」というのは始めてみる映画だった。Rによれば「とても良い映画らしいよ」ということなので、家族4人で行った。そしてくだんの少年もいた。映画の会場に行くたびに出会う少年で、いつも楽しそうにしていてどうやら招待されているらしい。彼は痩せ細り、点滴付きの車椅子にのっている。腕と首以外、動かないようだった。

私たちは一番後ろの席についた。その真後ろが車椅子の少年である。

 

少年は何と最後まで居た…。

私たちは這々の体で会場を後にした。

カフェで皆口々に、首がつっただの、肩が固まっただの、言い募った。

その時に「映画どころじゃなかった」と下の子が言ったのだ。

 

 

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海を飛ぶ夢」は実話に基づいていて、首から下が麻痺している男性が自殺する話。

 

 

いっしょに遊んだね

 公園の休憩所と冬になると作る生チョコ。

 

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 幼なじみの夢をみた。

わたしはのぶちゃんの家に向かっていた。橋を渡れば赤い三角屋根の家が見えてくる。そこにのぶちゃんは住んでいる。

 

 しかし、歩けど歩けど橋に近づかない。気がつけば、あたりは墨をひろげたような漆黒の闇で橋も道も川面も見えなくなっていた。

ウロウロとさまよいながら、見当をつけた方角に歩いていると、前方に人がいる。ぼうっとその人だけが明るく浮かび上がっている。

 

ようやっと近づいてみると、それはのぶちゃんだった。彼女はたいそう身体の具合が悪いと聞いていたから、「身体は大丈夫なの?」と聞いた。

「もう、治ったのよ。」とのぶちゃんはずるそうな笑顔を見せた。お洒落で綺麗な瞳ののぶちゃんは、眼つきがキツくなり人が変わったようになっている。

 のぶちゃんにしては野暮ったい赤いスカートもはっきり見えるが、それ以外は墨色が果てしなく広がっている。

 

「引っ越してあすこに住んでいるの」と彼女が指差す方を見れば、闇の中に戸口が開いて中にオレンジ色の光があった。

オレンジ色の光は暖かく、子供たちと楽しくやっているようだと思うが不安でしょうがない。何とか確かめようと焦っていると、のぶちゃんがわたしに帰れ、と言う。

 

その時わたしは、腹の底に固まっている悲しみに気がついた。それが這い上がってきた。

ノロノロと闇から身を引き剥がして、家に帰ることにした。

歩いていると明るくなってきた。川がチラチラ光って流れている。

のぶちゃんが何か言っている。「知っているでしょう?私は居ないよ。」

ああ、そうだった、とわたしは 気づいた。