フェデリコ・フェリーニ監督、脚本。1973年。 音楽ニーノ・ロータ
ツタヤ発掘良品から。
フェリーニといえば、ネオリアリズモの映画作家ですが、この「アマルコルド」のような中期以降の作品は、チネチッタ・スタジオで、巨大な野外セットや屋内セットを作って撮影しています。
逆行していますよね。
ネオリアリズモというのは、ヌーヴェルヴァーグに影響を受けたと言われています。
ゴダールやトリュフォー等、が有名ですが、(中条省平『フランス映画史の誘惑』を読むと)、彼らはそれまでの古典的映画、「詩的レアリスム」の打破を狙ったんですね。
実は、フランスの詩的レアリスムの映画に、日本映画の古典は親和性がある、と中条氏は指摘しています。
フランスの古典映画は、巨額の費用をかけてスタジオで撮影されていました。また、「文学性に映画の価値を置いていました」。
それを打ち破って出てきた、一群の若い作家たちがヌーヴェルバーグと呼ばれたわけです。
彼らは、ロケでどんどん撮影し、費用も安くあげたのです。
そうしたフランスの新しい芸術の波に影響を受けた、ネオリアリズモは、もともと、ドキュメンタリーの素地があった作家たちによって隆盛したようです。
やばいな…長くなっちゃう。(・ ・)
で、フェリーニは何故、逆行したのか?やっぱ、考えたくなりますよね。
フェリーニは彼のライバルのビスコンティと違って庶民の出です。
この映画でも、労働者が出てきて、要するに「働けど働けど、我が暮らし楽にならざり」みたいな事をユーモラスにやっています。
わたしの想像ですが、フェリーニはチネチッタスタジオの従業員、2千人近くいたんじゃない?彼らのためだったんじゃ無いかなあ、とちょっと思ったです。
もちろん、自分好みの美術の為でもあったでしょうけど。
ふう。やっと映画の話にはいります。
この映画は、見ている最中に用事ができて、途中でやめたんです。
帰ってきてから、初めから見直したんです。
そしたらですね、(この映画、下劣なとこあるんですよ)、それが、全く気にならなくなっていて、ゲラッゲラ、笑いながら、ものすごく楽しみました!
(たぶん、この映画、下劣に注意、って覚悟して見るべきだと思う、そうすると、この映画の世界にすんなり入っていけると思うの)。
チッタ、右手前から二人目、15歳の少年。
このチッタという少年がフェリーニだろうと言われています。つまり、自伝的だということです。
わたしは、この映画は、フェリーニが、少年だった頃の忘れられない体験を描いたものだと思います。
カントは「美」の上位に「崇高」があると言いました。
フェリーニは、崇高さに震え、そして驚愕、恐怖、これらは、美の感覚へと転換していくものです。
彼はそれを、つまり、少年時代の美の体験を映画にしたのです。
一応、村の一年の様子として描かれていますが、たくさんのエピソードが並んで綴られているだけで、物語性は薄いです。
また、カメラ目線で語る、人物が出てきますが、異化効果というより、ユーモラスに、映画の中に誘惑しているかのようにも見えます。
小舟に乗って豪華客船を見物する村人たち。
この巨大な豪華客船の見物も、船が現れた瞬間、感動に震えたんだということが、伝わってくるのです。たぶん、崇高を経験したんじゃないでしょうか。
わたしは、このシーン、「おお!」と思いましたけど、ハリウッドの超絶刺激的な映像に慣れ親しんでいるので、客船の映像に驚くことはできませんでしたが。
深い霧のエピソードは、きっと、子供心に恐怖や驚きや感慨といったものすら、経験したのかもしれません。それをフェリーニは、ユーモラスな映像にしました。
ある日、チッタは家族で農場にピクニックに出かけるのですが、これがルノワールの「ピクニック」を思い出します。
チッタの叔父は精神病院にいるのですが、彼も行きます。
そして、彼は、高い木に登って叫びます、「女が欲しいよぉーーーー!」と。
これが、わたしは、ルノワールの香り高い芸術性のある映画と重なり、もう可笑しくってしょうがありませんでした。(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
あと、この映画には、全編を貫く、コミュニケーションの「行き違い」があります。
冒頭のチッタの家族の食事のシーンでも、母親が「食べない」と言うので、夫と喧嘩になります。たぶんこれは、彼女はもう体の具合が悪かったわけです。
神父様とチッタのやり取りも、全く噛み合っていません。
「両親を敬っているか?」
「はい。でも両親は僕を尊重してくれません」
「お前のせいだ。ところで…」
といった具合です。
愉快な教師と子供達も噛み合っていないし、チッタひとりが、憧れの女性を庇ったのに、雪玉をガッツリ当てられるという象徴的なシーンもあります。
この映画はコメディなんですが、デュオニソス的祭典でみたされ、最後まで、喧騒の中突っ走ります。
すこし、寂しさが残って、それでも人生は続く。生きるのみ!そういう力強さがある映画でした。
わたしは、この映画、とても好きですねえ。