盗み聞きの快楽

まだわたしはすごく若かった。 

休日に机の前で何をしていたのかは覚えていない。

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コスモス☝️

 

すこし、鬱々としていたと思う。 

すると、外で怒鳴りあっている男たちの声が聞こえてきた。

嫌だなと思いながら、窓から覗いてみると、二人の老人が突っ立ている。

見るからに気難しそうな年寄り達で、80歳近いように思った。

彼らは庭にビニールハウスを建てようとしていた。

 

私の居る所からは、かなり離れているのに、老人二人の怒ったようなダミ声が聞こえてくる。

「おい…」とか「なんだ…」とか。

顔を上げて覗くと、年寄り二人の動きは緩慢で、やる気がない。

 

ところが、だんだん二人の呼吸があってきた。

「それを押さえてくれないか」

「これかい?」

動きもテキパキしてきて、二人の声からは遠慮が取れ、伸びやかになっている。 

 

そのうち、片方が、「おぅ、その角材、とってくれ」と言った。

すかさず、若やいだ声が、なんと!

あいよっ、ケンちゃん!」と応えた!

 

なんてこった!

きっと、きっと、二人は、久しぶりに会った幼馴染なんじゃないか?

子供の頃、いつも二人で遊んでいて「あいよ、ケンちゃん」って言ってたんだ…。

わーお、なんてこった。

 

過去が二人の老人を包んだ瞬間を聞いてしまった。

 

そらもう、

スコーンと心に風が吹いた。