アリストテレスは、悲劇は怖れと憐みの感情を呼び起こし、精神を浄化する、と言ったが、正にこのラストはカタルシスそのものだった。
お話は粋だし、どっちゃり泣いて心爽やか…な自分がいる。いや、なに、わたしには息子役のような葛藤はないのだが、それでも、こういう塩梅になったのだから、この映画には幾ばくかの普遍性があると思われる。
マーク・ラーソン監督、2017年。
エド・ハリス、ジェイソン・スデイキス、エリザベス・オルセン、ブルース。
疎遠だった親子は、唯一残された現像所を目指す。一生忘れることのできない最後の旅が始まる。Netflix
命が終わりかけている有名な写真家の父と疎遠だった息子が最後の旅に出る。
それをコダックフィルムの終焉とともに彩る。また、息子自身が音楽プロデューサーとしては時代遅れになりつつあった。そうしたもの全てをくるんだ粋な構成のロードムービーだった。
またこの父親がいかに家族を顧みなかったか描写されるのだが、わたしは本気で嫌いになったし、父としての哀れな嫉妬心に、わたしのいつものおセンチな同情心は全く発動されない。
しかし、「俺の写真は残る」という父親の言葉は、アーティスト特有の凄み、矜恃なのだ。それが最後に圧巻の重みを持って迫ってくる…。
泣きはらした目で、宅配を受け取った。いつもは明るい宅配人なのに、そそくさと帰った。こういう時って罰が悪いのは向こうなのねぇ。
エド・ハリスの横顔、その死顔が、また、心に浮かぶ。そのシーンはゆっくりとした彼の死の予感から始まる。そして彼の横顔のショットが見事すぎるのだ。
またわたしはティッシュに手を伸ばす…。