むかし、ときどき呟いてた、「knoriがんばれ、がんばれ」って。
※昨年の写真。雨の中のカサブランカ。
今は、ネジが5本くらいは外れて ポケラーンと生きてる…。
スーパーで働いていたときのことだ。
わたしの近くの部署に、18歳くらいの男性が配属になった。彼は手足が踊るように動き、脳性麻痺だった。
売り場はステーショナリーのレジで、彼は鉛筆などを小さな袋に入れるのだが、手が震え、頭も揺れる。そしてどもる。緊張すると特にそれが酷くなった。
なかなか正視出来ないとこがあり、顔を赤らめた中学生に「袋いらないです」と助けられていることもあったし、当然のことながら、怒鳴り出すお客も多かった。
スーパーのお客様の中には、店員より自分が偉いと本気で思っているのか、立場の弱いものをいじめるのが好きなのか、絶句してしまう人がいる。
アメリカでデパートなどが「わたしたちはお客様を選ぶ権利があります」と宣言したが、しみじみとこれを理解できるのは、店員だけだろう。
それでも彼はいつも笑顔で頑張っていた。
ある日のこと、わたしは目にしたことが信じられなかった。彼は滑らかに喋っていたし、手元もしっかりしていた。
その後も彼の身体と話し方はどんどん滑らかになって、一見しただけでは、障害があるようには見えなくなった。
治ったんだ!なんだかわたしはすごく嬉しかった。
夜の10時を過ぎていた。その日は 棚卸しに不手際があり、すべての従業員が疲れ果てていた。
わたしはトボトボと薄暗い通路を通り休憩に向かった。
前方にカクカクと踊るような足取りの男性が見えた。
彼だった。…初めて彼を見たときの歩き方だった。
わたしは床に叩きつけられたような気がした。
彼は治ったわけではなく、すべてのシナプスを神経を総動員して、体勢を保っていたんだ。どんだけの緊張があったんだろう。病気のことは何も知らないが、きっと果てしない頑張りなのだろうと思った。
「なーにがknoriがんばれ、だ!」「威張るな!健常者!」
わたしは自分に向かってそう吐き捨てた。
涙がこぼれてくるので、普段は嫌だった真っ暗な資材置き場に入った。