ア ゴースト ストーリー

 わたしの身体の奥にコトンと何かが置かれた。映画を見終わってそう思った。

 

f:id:knori:20210120132447j:plain

 ゴーストのケイシー・アフレック☝️ ネタバレ注意

 

2017年、デヴィッド・ロウリー監督。

ケイシー・アフレックルーニー・マーラ主演。

 

 作曲家のケイシーと妻のルーニーは、古い平家に住んでいた。何もない野っ原の少し小高い土地にポツンと建つ家だ。

 

そのケイシーは交通事故で死んでしまい、ゴーストになる…。

主人公は、シーツを被ったゴーストなんだ。

 

引っ越しの準備をする妻は、メモを隙間に押込み、上からペンキを塗った。 

 そして彼女は家を出て行った。

この辺りから、ゴーストの静けさは悲しみとなってわたしに刺さってくる。置いていかれたのは妻の方なのに、見捨てられ感は逆転する。

 

f:id:knori:20210120132522j:plain

 

離れのような小屋があり、窓辺に佇んでいるのは、花柄のシーツを被った女のゴーストだ。

「何をしているの?」

「人を待ってるの。」

「誰を?」

「覚えていない…。」女のゴーストは狼狽えた。

二人は、サイレントで、つまり字幕で会話する。

 

 ケイシーのゴーストは引っ越した妻について行かない。

ゴーストは愛する妻に執着しているわけではないのだ。

 

ゴーストは家に執着していた。

もっと言えば、時間の記憶…歴史に囚われている。

 

その同じ場所で彼は、その場所の未来を見て、過去も見るのである。

開拓者の家族が幌馬車から降りて、昼食をとっている。父親がここに家を建てようと言う。

小さな女の子がメモを石の下に隠した。

ゴーストは座って見ていた。

いつの間にか、ゴーストは家の中に座っている。

あまつさえ、時空を超えたゴーストはかつての自分のゴースト姿も見つめるのである。

 

遠い昔、掘り出そうとした妻のメモに気がついた。

ゴーストはそれを読んだ。

 

その瞬間、彼は解き放たれた。

 

ゴーストは何に執着していたのだろう?

 

 

 

彼の執着とは、無になることをあらがう旅だったのかもしれない、とわたしは思う。

彼の業績、彼の歴史は、無になるのだろうか?

 

妻のメモは、「あなたを忘れない」「愛している」そんなありきたりなものかもしれない。

けれど、この個人的な囁きで、ゴーストは解放された。

充分ではないか?