めっちゃ変わった作りの歴史ドラマだった。
ネタバレ注意
2017年、史劇
脚本 張建偉
昭王は始皇帝の曽祖父。よく知られた人物なので、どういう解釈を取るのかが見どころのドラマ。
名参謀の范雎、武神の白起を絡ませながら、変化球で昭王の人物像を浮かび上がらせていた。
薄暗い画面は殺伐として、モコモコした長衣にもうんざりするが、後半には、床も磨かれ、衣装も心持ち、すっきりする。
不思議で変わっていて面白いドラマだったん。
有名な出来事を簡略に描きながら権力者達のうんざりする愚かしさが並んでいく。
悪役は「人の愚かしさ」と言いたくなるような戯画っぽさがある。
ブラックジョークのような矮小化なのだ。
昭王ですら、「マヌケ!」な描写があるし、唯一、まともな描写は白起だけ。
范雎に至っては、ゲゲの鼠男。まじで。
ところがラスト2話で、戯画っぽさは突然、意味を帯びる。
白起が自害に追い込まれる話だ。
昭王は、東屋にいた白起と向き合い、初めて本音をぶつけ合う。
互いに本音を言い合っているというのに、全く恐ろしく噛み合わない!
これが、もう圧巻!
作家の本音は、これか!と思わずあたふたした。
白起は、天才的な武将であっても、人としては常識的で、わたしは彼の訴えをよく理解できた。
「王が殺せと言えば殺します」
「王は全ての責任を負うほどの器であってほしい。」
一言で言えば「尊敬したいんだ」ってことですねぇ。
なにせ、白起は、投降兵20万人を殺さなければならなかった。
一方、昭王の心を一言で言うと「わたしの奴隷になれ」です。
「范雎の方が上だな」と昭王が呟くのは、罪を被れと言ったら被り、背中を押せと言ったら押すのが、范雎だったから。
白起を殺し、范雎を殺した後、昭王は幻覚の父に語りかける。
「忠臣は扱いずらい。まだ悪人の方が使い道がある」と。しかるに父は「白起を殺したのはお前が愚かだからだ」と答えた。
全てをわかっていたんですねぇ、昭王は。
専制君主に潜む人格破綻、善と思われていた歴史上の出来事や為政者の矮小化の羅列、その中で、密やかに白起は「わたしは普通の人でありたい」と言ったのだった。