10秒の間(ま)

深夜のコンビニには雑多な人々が往き交う。

 ましてここは住宅街だ。

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 どう見ても部屋着を着ている主婦はパーカーを羽織ってノーブラを誤魔化している。

格別わたしの観察眼が鋭いわけではない。

部屋着女はわたしだから。

……!

だからわたしはアタフタ、ササっとタバコとコーヒーを買って、車に戻った。

 

「 チッ、バックで出なきゃ。」と思った時、若い女性が、やっぱり何故か、背中を丸めて、小走りで私の車の前に来た。

彼女は、私の乗っている車の前を通って助手席側に回り込んで行った。

「やれやれ。彼女が後ろを通り過ぎるまで、待たなくちゃ。」わたしはハンドルにもたれた。

 

ガチャ。

 

いきなり助手席のドアが開いたのである。

その若い女性だった。屈みこんで乗り込もうとしている。

仰天しているわたしと目があった。

深夜、見知らぬ乗客が、断りもなくわたしの車に乗り込もうとしている。

 

しかし、仰天しているのは若い女性も同じであった。

何故なら、二人は見つめあったまま、2、30秒間の間があったからである。

 

まあ、少なくとも10秒間は見合っていた。

 

多少は冷静さが戻ったわたしは、彼女はコンビニの店員さんで、わたしは何か忘れ物をしたのではないか?と考えた。

 

わたしは口をパクパクさせた。

 

それまで固まっていた若い女性は、「す⤴︎ません」 と関西弁のイントネーションで謝ってから笑い出した。

 

 わたしも笑った。

彼女が向かった隣の車の父親とおぼしき人も笑っている。

 

思うに、彼女は、わたしの肩越しに見えた父親らしき人が目に入るまで、固まっていたのだ。

 

しみじみとわたしは思った。あまりにも驚くと、固まるんだなぁ。

そういえば私は、恐怖で「腰が抜ける」という事態も経験した。

文字通り、腰が抜けて足が動かないのだ。 

「 悪かったわぁ、ドラマなんぞで、早く逃げろ!ばかぁ!」と何度も思ったもんだが、ホントの恐怖に直面すると腰が立たないし、足も動かない。