ラストノート

彼女は、辛そうに身体を起こし、枕にもたれた。

「あの彼が見舞いに来たのよ」と、わたしに言う。

“あの彼“というのは、昔、彼女が愛した男だ。

彼女の夫も“あの彼“を知っていた。最後に、会わせてやろうとしたらしい。

 

「彼には、会いたくなかった。見られたくなかった…。」痩せ細った彼女は、かつての美貌を失っていた。

「彼はね、奥さんと赤ん坊を連れて来た。」

わたしはとっさに、「きっと、あなたの夫に気を使ったんだよ。」と答えた。

彼女は子供のように首を振った。

 

実のところ、わたしは混乱していた。“あの彼“の行動が理解できない。

時々、男は、女の大切なものを簡単に破壊する。

 

「昔、彼は、スパイシーな香水を持っていた。」

「桃の香りにスパイシーな香りを重ね付けすると、洗練されたラストノートになるのよ。」

帰りがけに手を振ると、彼女はそう言った。

 

 

 

 

三体

中国はファンタジードラマを上手いこと作る。SFも上手いだろうと何となく思っていた。

この中国版「三体」は、やはり面白かったよ。

3月末にはnetflix版「三体」も公開される。比べて見るのも一興かな。netflix版はアメドラ系ってことになるかな。

若い頃の葉文潔☝️

このドラマは、三部作の第一部にあたる。

第一部は、葉文潔教授によって語られる若き日の決断と、力学で有名な「三体問題」について描かれる。

 

むかし、1966年からの文化大革命を知った時、わたしは、知識人層や、粛清された人々のことを想像した。

希望が微塵も無い、手も足も出ない状況では、絶望しかないんだろうな、とその時に思った。

ドラマでは、「科学と知性の否定」という短い文言しか出てこないけど、紅衛兵の暴走を思うに、地獄に落とされたようだったろうな、と思う。

 

若き日の葉文潔は、ずっと無表情だ。感情が枯渇したような顔なんだ。

現在、老いた葉文潔教授は、「決断を後悔したことがあるか?」と聞かれ、あっさり「無い」と答えた。教授は、ふと立ち止まり「そういえば、一度だけあった」と話し始めた。

 

若い葉文潔は、村の子供たちから請われて勉強を教えることになった。その頃には、文化大革命も終焉に近づいていたのだろう。

子供たちの自然な知識欲は、葉文潔の硬い殻を少しずつ剥がしていた。

凍てつく大晦日の夜、子供たちは、葉文潔先生に餃子を届けに来た。

彼女は、子供たちの話に笑いながら泣いていた。

見始めてからはじめて、彼女に人間らしい表情が戻ったのだ。

その瞬間、若い葉文潔の深い深い絶望感が私の心に沁み入ってきた。

 

わたしは、一時停止を押して、考えた。

まさか、今になって、むかし知りたかった文化大革命の傷に、葉文潔の決断を被せた作品を見られるとは、、。

このシーンはわたしにとって万感胸に迫るものだった。

 

三体問題のゲームも面白く見た。

わたしは、三体問題の「問い」を理解したつもりになった。

虫のショット、第二部へ向けた伏線のショットは心に残る。

第二部、すごく楽しみ。

 

 

 

星漢燦爛 月升蒼海

曹操は海をはじめて見た。感動していた。

「太陽や月は、海から来るのか?

天河に燦爛と光る星は海の裏から来るのか?

いやあ、高揚する!この気持ちをメモしておくよ」

……日月之行、若出其中、星漢燦爛、若出其裏、幸甚至哉、歌以詠志曹操「夏門歩出行」)

 

ドラマタイトル、前半部星漢燦爛」、後半部「月升蒼海」。

「天河に星が光り輝き、蒼い海原から月が昇る」

美しいなぁ、誰の詩からとったのかな、李白なのか、杜甫なのか、、おぉ、曹操だった。

残り数話のアップは年末だと表示されている!!くっそぉ、待ってるのにぃ。。

「星漢燦爛」というこのドラマ、めっちゃ、好きだ。めっちゃ面白い。

 

少女は若い将軍と出会い、紆余曲折を経て結ばれる。

この単純な物語が、幾十にも折り畳まれたキャラ設定の妙によって、動いていく。

 

虐待されて育った少女は、心の底に冷たい孤独を抱えている。

若き将軍は、皇帝に愛されて育つものの、重大な秘密を抱え、彼もまた、孤独なのだ。

2人は、ルソーの言うように、孤独に育まれた自由人である。

少女は、自分の欲望に忠実だし、大人の言うことなど意に返さない。

ドラマの冒頭、少女は、叔父を役人に突き出した。この時、将軍は、少女から自分と同じ匂いを感じ取った。

運命的な出会いであった。もっとも、少女は全く理解していなかった。

将軍は、「情愛談義」の巻で見られるように、実は人情の機微についてよく分かっている。

けっして、朴念仁ではない。ただ、全くもって軍人仕様な人物だ。

 

主役2人の演技も面白いし、物語は、ユーモラスにリズムよく進む。

☝️ウー・レイとチャオ・ルースー

 

少女役のチャオ・ルースー、作者は、この役を彼女に当て書きしたんじゃないかと思った。

「黒豊と白夕」のチャオ・ルースーは美しかった。今回のヘアーメイクにはがっかりだ。それなのに、わたしはやっぱり彼女に引き込まれる。

 

将軍役のウー・レイ、「我が名は」の巻は、圧巻だった。静かな苦悩から、痛みが伝わる。

受け手の役者さんは、重過ぎず、感情を損なうこともなく、ドラマの流れに乗っていた。

総じて、年のいった男性の役者さんたちは、軽妙だったと思う。

 

対して、女性陣は、なりふり構わず、荒くれた表現をやってのける。い、いいのか?後悔しない?とちょっと思った。特に、五公主役の女優さん。もし私がプロデューサーなら次の作品に彼女はキャスティングしない。

悪役ながら文修君役の女優さんは、なぜだか心に残った。好きかも。

 

面白くて、3回も見た。