真夜中に外でタバコを吸っていた。
今年は何だかあたたかいと思う。
上弦の月だ。
山のほうでは獣たちがざわめいている。
フェンスを超えて、闇が忍び寄ってきた。
よく見ると、それは鼠色をした鹿だった。鼠色の鹿は申し訳なさそうに「スパナを貸していただけないでしょうか?あすこの山でアンアイデンティファイドフライングオブジェクトが故障してしまったのです。」と言った。
わたしはペンチを渡した。どれがスパナか分からなかったのだ。
鼠色の鹿は丁寧にお礼を言った。
山の上にぼんやりとした光が見える。わたしは物置小屋にもどって、庭仕事用の長靴を履き、キャップを被った。
アンアイデンティファイドフライングオブジェクトを見たかったのだ。
山の上は台地になっていて、広い森林公園と繋がっている。
レモン色に発光しているレモンのような形のアンアイデンティファイドフライングオブジェクトは遠慮がちに端っこに不時着していた。
さっきの鼠色の鹿がペコペコしながら寄ってきた。
「ありがとうございます。おかげで直りました。スパナをお返しします。」そう言ってペンチをうやうやしく差し出した。
鼠色のお尻を嬉しそうに振り、振り返りながら、やはりペコペコして去っていった。
わたしはたまげていた。
アンアイデンティファイドフライングオブジェクトはたぶん超光速航法、つまりワープをしちゃうだろう。それがペンチひとつで直った。
スパナじゃなかったのに。
……(๑╹ω╹๑ )