369のメトシエラ、彼女の贖罪

小林兄弟監督、脚本。2011年。 

 阿部百合子。

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 映画が終わった時、心に爽やかな風が吹きました。

 

そして、監督たちをとても意気に感じました。だから紹介、感想を書きます。

 

 

 あらすじ

区役所に勤める俊介は、一カ所に定住することなく引越しを繰り返していた。古びたアパートに引越した俊介は、毎日のように隣室から聞こえてくる奇妙な歌声に興味を持ちはじめる。やがて引き寄せられるように隣室を訪れた俊介は、そこにいた老婆から思いがけない話を聞かされる。映画・com

 

この映画は、おばあちゃんが素晴らしいです。

若者二人がアパートの部屋でじゃれ合っているときは、うんざりする薄汚れた部屋が、おばあちゃんが和装で凛と座っていると、部屋まで趣あるように見えてきます。

「わたしはなにをしていたの!」とおばあちゃんが吐き出すように言った台詞、忘れがたいです。

 

そして、脚本は、ミステリー仕立てですが、根底には、社会に対する問題意識があり、孤立して暮らす若者、捨てられる子供、一人暮らしの老人、物語は彼らを拾い上げていきます。

 

人は繋がることが出来る!そのまなざしがたまらなく優しいです。

 ビバ、兄弟監督!

 

 

そそ。

音楽がうるさいです。感傷的な音楽が延々と流れ、画面を安っぽくしています…。

 贖罪、という言葉は、音楽が洗い流してしまいました。

 

 

ブリザード凍える秘密、普通にこだわる悲劇

 グレッグ・アラキ監督、脚本。2014年。

 シェイリーン・ウッドリーネタバレあり

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彼女は するりと服を脱いだ。 

重そうな乳房があらわになるが、彼女の長い髪が蒸せ返るような若々しい肉体を瞬く間に隠した。

 

 

あらすじ

1988年のある日、17歳の女子高生キャットは父ブロックから母イブがいなくなったことを知らされる。カウンセリングを受けることになるが、その内、キャットは母の不思議な夢を見るようになる…。wiki

 

彼女の裸体のイメージがしばらく抜けなかった!もうこの映画はおっぱい!とか思ったが、しばらく経って、落ち着いた…。w

 

この映画は、一風変わったミステリー。スリルや緊迫感はないが、どこかしら、薄気味悪さがある作風なんだ。

 

母親が失踪したというのに、娘はツラーっとしている。ほぼ、娘の視点から事のあらましが語られていくが、彼女はなんというか、面の皮が厚い、というか、母親との関係も少し尋常ではない。

そ。そして、この17歳の少女はメークをしてセクシーなドレスを着て刑事を誘惑するのだが、とてもとても綺麗!

 

 

ネタバレあり。

少女の母親、少し狂っている。

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彼女は友人に言う「父は表面を引っ掻いてもその下に表面があるような人」だと。

この言葉が、ラストの結末へと結実していく。

つまり、世間体や体裁ばかりを取り繕っていることへの、監督の痛烈な批判なのだが、その結末の描き方は、わたしにとってかなり後味の悪い、イヤァなものであった。

 

「笑うな!」と言う夫と高らかに笑う妻。

夫は、自分を恥じて隠しているのだ。だから、笑うな、と叫ぶのだし、妻は、自分の苦悩の理由がわかって、むしろ自分を、その苦悩を、笑っていた。

だからここの齟齬は恐ろしい。

 

妻はたぶん、夫に長い間、触れられていない。浮気もしていない。浮気をしていたならば、彼女は、肉体が花開いてきた娘に嫉妬することもなかったし、娘のボーイフレンドの前に、恥ずかしい短いスカートをはいて現れることもなかったはずだ。

 

この父と娘は、決して妻に、母に、「どうして欲しい?」「何を悩んでいるの?」と聞かなかった。

父は、自分の欲望とその羞恥心に埋もれ、娘は、思春期で自分のことで精一杯だったにしても、自分の心をけっして覗き込まなかった…。

 

なんという悲劇だろう…。

とても悲しい。 

 

  

たそがれ清兵衛、山田監督について書こうと思う。

山田洋次監督、脚本。 2002年。

真田広之宮沢りえ

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 やなぎちゃん が清兵衛を汚い、と言っていて、実はわたし、わかるのよね、それ。

 

わたしは若い頃、山田作品が嫌いで、TVの映画劇場でチラ見しては「うっわ。ダサイ…」と思っていたんだ。でもある日、女優さんに惹かれて、「寅さん」のビデオ(まだビデオだった)を借りたわけ。

まあね。

48本、見ちゃいましたよ。

あの世界観にハマってしまうと、もうもう面白い!

 

 

この映画「たそがれ清兵衛」は時代劇ではあるけど、まあ、寅さんの変奏だよなあ、と思うの。

やなぎちゃんが好きな「 必死剣鳥刺し」は、ヤクザ映画の変奏やん?(と、言っていいと思う。)

わたしの知ってる昔のヤクザ映画のね。高倉健とか藤純子とかの。w

 

 つまり、「たそがれ清兵衛」は、気持ちよくダサくシーンが情緒に溢れている。

これが嫌いなら、もうそれまでだけど、でも、アカデミー賞の外国映画にノミネートされた。

わたし、山田監督は、なんていうか、もっと美的センスがあれば、脚本家として、演出家として一流だし、エンタメ映画作家として世界的監督になった人だろうと思う。

 

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そいで、演出家として優れているから、役者が生きる。

高倉健の2作品もわたし好きだわぁ。 

寅さんも!

 

 ん…

ダサい、ってなんだ?!つう話だけど、つまり、うまく言えないのよ。

でも、何処で読んだのか忘れたけど、山田監督は小津安二郎を退屈って思っていた、って。

嘘かホントか知らないけど、愕然とするよ。つうか、そう言われちゃうようなところが映像にあって、それをダサい、と言っていると思って下さい。

 

わたしは、多分、溝口、とかの映像を思い浮かべて、比べているんだろうと思う。

 

 しかし、山田監督は東大の法学部出て、どうして映画会社に就職したんでしょ?

本を書こうと思っていたのかしら?でも、結局、頭が良いから、監督もやったらできちゃった、って感じなのだろうか?

まあ、全然、わたしは知らないのだけど。

 

結論としては、

彼の作品はやっぱ、(どんな監督も外れはあるにしても)、愛される映画だと思う。

 

 

追記

 

たそがれ清兵衛」がアカデミー賞外国映画賞にノミネートされた、と書きましたが、わたしはアカデミー賞の権威にクラクラしているとかそういうことではありません。

分かる人には分かるというスタンスなんだけど、コンマさんが紹介してくれたので、やはり説明不足だなと思うので書きます。

 

韓国映画が日本映画をあっという間に凌駕してしまった(ように思える)のは、韓国は観客の需要が少ないので、世界マーケットをターゲットとしていたからです。

日本は国内だけで需要が十分なので、井の中の蛙と申しましょうか、日本人だけは笑う、それでよかったわけです。スウェーデンの人や、アフリカの人がポカンとしても構わないのです。

しかし、そうした文脈無視は、映画の質を下げているのではないかと、わたしは思っているのです。