夜道を二人が歩いている。
青黒い空に、桜が狂ったように舞い散っていた。(2100文字)
2003年制作の「チェオクの剣」です。 ハ・ジウォン主演☝️
逃げている男にチェオクが剣を向け、仕留めようとしている。男は、生き別れたチェオクの兄…。
ドラマは、この冒頭の一連のシーンで結末を見せている。
観客だけには、男がチェオクの兄であることが分かる。
チェオクは貴族(両班)の娘だった。大事に大事に育てられた7歳の女の子は一夜にして全てを失ってしまう。父親は謀反の罪で殺され、一緒に逃げた兄とは離れ離れになり、彼女は捕まった。
心が潰れそうになったよ、わたし。小さな小さな女の子は奴婢(奴隷)にされ、下働きの女に小突かれながら歩いている。たくさん歩いたのだろう、彼女の足は血だらけだった。
もうどうしようかと思って見ていると、その小さなチェオクは若様に出会うのだ。
12歳くらいの若様は、実は、朝鮮の苛烈な身分制度の中では、半分、と呼ばれる立場。母親の身分が低いせいで、官僚にはなれない。
けれど優秀すぎて頭一つ抜きん出てしまう若様は、様々な塾を転々としていた。高い身分の子供たちの嫉妬をかってしまうのだ。
絶望した少年は、絶望的な不安の中に居る小さな女の子と出会うのである。
若様は寺に預けられる。もちろん召使のチェオクも一緒だ。
この二人がのどかな山奥の寺で成長していく映像が、ものすごく心に残っている。
若様はこの時のことについて、こういう言い方をする。
「お前が居ると、呼吸ができた」
「お前を守るために強くなる」というありきたりなセリフは言わない。
冒頭で追われている兄が言う。
「道のないところをわたしが歩けば、次に続く者が歩く。そうして道はできる」
国の制度を守るお奉行様に「お前は道を誤った」と言われて返した言葉である。
おぉ!革命家だぁ!と期待したよ、わたし。
ところが、確かに彼は革命家ぽいけど、義賊に過ぎない。そして、朝廷での党派間の権力闘争に利用されているんだよねぇ。
そらも、ね、早送り、飛ばし、ですよ、わたし。嫌いなんだ、この手の話。
ガンガン、飛ばしまくったよ…。
でもって、一番上に書いた、桜吹雪のシーン。
チェオクは若様を守るためには、自分の右腕を切り落とされることも辞さないんだよ。
まぁ、若様に助けられけど、腕に切り傷ができた。
桜吹雪の中、若様は腕の傷を確かめて、布を巻くんだけど、こうやって言うんだよ…。
「痛いか…。俺も痛い。」
このセリフはわたしはたいして好きってわけじゃないけど、評判になったらしい、ネットによると。
つまり、「俺は死ぬほどお前が好きだ。お前が痛いと俺の心はもっと痛い」つう意味なんよ。
若様は、日本でいうところの町奉行の仕事についていて、お奉行様に可愛がられている。若様は、国一番の武将と言われるまでになっている。
チェオクは若様の部下、つうか、正確な身分は奉行所の使用人、だけど、女性の事件のときは、彼女が出向くシステム。チェオクはメッサ優秀な銭形平次みたいになっているんだ。
チェオクの少年のような凛々しさって、ね、惚れるよ。すごく良いんだ。
で、ね、チェオクは、強盗団を追うんだけど、そこで、兄と出会うんだ。
もちろん、二人は兄弟だってことを知らない。そして、惹かれあってしまう…。
チェオクは兄を逃す。
そのとき、若様の視線の先ですべての音がとまる。
彼の生まれて初めての嫉妬を…描いたシーン。
いいなぁ…良かったよ。ありきたりな表現でも必然的だと感じさせるものは良いんだなぁ。
この身動きが取れない身分制度の中で、チェオクってば、自立しているんだ…。
…それは、三人の愛の悲劇でもあったんだけど。
2006年制作「ファン・ジニ」
ハ・ジウォン☝️
チェオクことハ・ジウォンに惚れたわたしは、続けて視聴。
このドラマ、早送りも飛ばしもしなかったよ。面白かった。
彼女は日本で言うところの芸妓。奴婢という身分。
彼女が踊るシーン。
彼女は、空気をまとうような、しっとりと柔らかな動きを持っている。
それがとても好きだった。
彼女の初恋は16歳くらいの頃。18歳くらいの貴族の少年が彼女に恋い焦がれる。
妾にするならまだしも、彼は彼女を妻にするという。二人で逃げても見つかれば死罪になる。
少年の愚かな恋の信念はこうだ、
「真心で説得すればみんなに分かってもらえる」。
…しかし、だ。わたしはこの愚かさが愛しい。だって、この愚かしい真心、というものは、世の理(ことわり)の泣けてくるような根本ではないの?
死んでしまった少年の遺体を乗せた荷車が、娼館の前で動かなくなる。あぁ、この話、知っているなぁ、と思いながら、わたしは…号泣 すよ。
その後、大人になった彼女は、二度目の恋をする。
あの少年のような、そしてもっと賢くしたような貴族の男と。
この三人、少年、貴族の男、彼女は、ロマンチックラブによって、世の中の仕組みから飛び出す自由な心を持った男女なのだ。
しかし、
貴族の男に、彼女が言う。彼女は彼ではではなく仕事(芸)を選んだ。
「互いを抱きしめるかわりに、自分が心をくだく物事を抱きしめましょう」と。
二人が、亡くした子供を見送るために琴と笛を奏でる。二人の決別のシーンでもある。
そのとき、わたしは、未練心があふれてきて… 自分でも首を傾げてしまう。