コーエン兄弟監督、脚本(2013年)
「この首を吊るしてくれ」「そうすりゃおさらばだ」と男が歌っている。
60年代、ボブ・ディランが出てくる少し前。このけったいな歌を歌っている男の、ある一週間を写し出した映画なのである。
この映画の影の主役とも言えるフォークソングが好きになれなくて、それでも飽きずに最後まで見れたんだけど、この映画のことは忘れることに決めていた。
ところが、「おまえ、ユリシーズって言うのか」と、名もなき男が猫に言った。2、3回言った。
男のせいで、放浪、そして帰還したこの猫は、ホメロスの英雄の名前を持っていた!
わたしは一応ネットを調べた。そしたら、コーエン兄弟監督がインタビューで「この映画はプロットがないから。あはは。」と言っているではないか!
つうことは、ジョイスの『ユリシーズ』を下敷きにしているのか?
あの難解なほぼストーリーがない小説。(わたしの頭では理解できず、眺め回しただけ)。
あと、監督は、実在のデイヴ・ヴァン・ロンク(ボブ・ディランがあこがれていたらしい)をモデルにして脚本を書いたらしい。ーYouTubeで彼の歌、聴けます。
最後、男の歌の後に登場するのはボブ・ディランだと。それと、男がシカゴで会ったマネージャーみたいな人は、ボブ・ディランのマネージャーになる人らしい。
つまりこの映画は、音楽に詳しい人か、文学に詳しい人が見ると、相当、楽しいんだろうなと思う。
印象的だったのは、男がピーター・ポール&マリーのようなキレイ系の音楽をやれと言われて(少しは売れたかもしれないのに)拒否したこと。
ところどころユーモラスではあるものの、映像は気怠くて、男の信念さえも気怠い。
彼が音楽を続けるのは船員証を無くしたからだとはいえ、男は帰るべき場所にやはり帰ってこざるを得ないのである。