ウェス・アンダーソン監督、脚本、原案。 2014年公開。監督がこの作品を作るにあたって影響を受けた作家シュテファン・ツヴァイクに献辞が捧げられている。
少女は墓地の中にある銅像の前にたたずみました。
この冒頭のシーンは、音楽といい、木立の向こうを彼女が歩いていく、その感じといい、素晴らしいのです。けれど、少女は膝を曲げたような可笑しな歩き方で、この映画はコメディタッチであることがわかります。
(たまに、冒頭のシーンでこれは並々ならぬ映画だな、と思うことがあって、「ザ・マスター」という映画もそうでした。)
…で、この映画の物語というのは、中年にさしかかった小説家が富豪の老人から話を聞いて、『グランド・ブダペスト・ホテル』という小説にします。冒頭で少女がそれを読んでいるわけです。
お話の中心は、老人の語りで、時は1930年代。グスタヴ(レイフ・ファインズ)というコンシェルジュのお話です。(年代によって画面のアスペクト比が変化します)。
それで、この監督には必ず言及される有名な撮り方があって、正面から撮るのと、画面を人が横に移動する、そういう撮り方をします。
だから(百聞は一見に如かず)、わたしは、紙芝居か人形劇でも見ているような気がするわけです。
そして、この監督の特徴として、細部の美術デザインに一切の手抜きがありません。
一番上のホテル内部の写真を見てください。すごいでしょ?!
監督はこの作品を作るにあったって、アニメで自分で声まで吹き込んで、ストーリーボードを作っていたそうです。
右がアンダーソン監督です。⬇️
細部まで見事な美術装置、これは撮り方によっては、壮麗なドラマになるはずです。
けれど、(一番上の写真)、壮麗なホテルに駆け込んでくるゼロ( トニー・レヴォロリ)には生々しさがありません。
生々しい人間ではない登場人物と、精妙でリアルな舞台装置、その間には妙なズレがあります。
ここに立ち現れてくるのは、肉を切られる痛みを持った記憶ではなく、教科書で習う「歴史」です。
教養人であるグスタヴは、ヨーロッパの2、30年代に上流階級のサロンなどで花開いていた自由で新しい芸術の名残りを生きています。
戦争という暴力に対して、彼は文明という言い方をするのですが、その信念を持って声高に抗議し、ぽこんとやれてしまいます。
彼はそれで本望だったのかもしれません。
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この映画にはウィレム・デフォーが冷酷なアサシン役で出てきます。彼とスキー場での追っかけっこもすごく楽しいのですが、えっと、デフォーがか可愛い、んです!
監督が次に撮った「犬が島」のアタリ少年に似ています。