ぺたぺた。彼女が歩く音。扁平足というものらしい。
わたしは、扁平足の彼女と暮らしている猫である。
ちなみに、名前がなかった『吾輩は猫である』の“猫”は母方の祖先にあたる。
かたかた。これはわたしが歩く音。
彼女の足音に似せたかったのだが、わたしの肉球は綿毛に覆われていて、どうやってもぺたぺたとはならない。
少し爪を出して、かつかた、という音で我慢している。
一度、彼女はスキーのために向こう脛を鍛えるといって、爪先を持ち上げ、カカトを床に打ちつけて歩いていた。
どしどし。
これは簡単に真似ができた。
どすどす。
彼女にRと呼ばれている男と彼女が振り向いた。
「うわぁ、びっくりした。誰か居るのかと思った」
「おまえ、猫にあるまじき存在感だよ」
わたしは得意になって二人の前を歩いた。
どすどす。
数日後、彼女はカカトが痛いと騒いで、どしどし歩きをやめてしまった。スキー用の筋肉は付かなかったようだ。
いま、扁平足の彼女はパシャパシャと写真を撮っている。いつものように彼女のそばに行った。かつかつ。
「あれ?いま、通った…?ねぇ?」
時々彼女は悲しそうな顔でわたしの写真をながめている。私の体は庭のお墓に埋まっている。
けれどわたしはいつもいつも彼女と一緒だ。
日の光が床に溜まっている。私はそこで丸くなった。
ぺたぺた…彼女の音。