わたしは20歳だった。
「knori、ケーキの作り方、教えて」とE子に頼まれた。
「本を見てその通りに作れば大丈夫だよ。」と答えると、
「難しくて、出来ない!」とE子は言うので、首をひねってしまう。
お菓子やパン作りは、簡単なのだ。道具さえ揃っていれば。
でも、このわたしが人の役に立つのだ、そう思うと何となく嬉しかった。わたしはまず、彼女の道具や材料の買い出しに付き合った。
家に帰り、ふたりで作業をしながら、スポンジには、なぜ、卵の泡立てが必要なのか、バターケーキとの違いは何かとか、一生懸命、基礎的な情報を伝えた。
知っていれば、作り方の整理もついて、億劫にならない、と、わたしは思っていた。
E子が覚えたがったショートケーキは、そうこうしているうちに美味しそうに出来上がった。
わたしはいそいそと、コーヒーを淹れ、「さぁ、食べよう!」と言った。
ところがE子は、ケーキの箱も買ってあるし、持って帰る、と言う。
「箱…?」
「明日、呼ばれている友人のところに持っていくの」
わたしは、がっかりした。ケーキを食べると思っていたから、何も用意していない。
E子は、コーヒーを飲んでそそくさと帰って行った。
それから半年くらい経っただろうか?E子からお茶の誘いがあった。
E子は、その頃には、お菓子作りの腕を上げ、不器用なわたしより、ずっと上手になっていた。
彼女は、繊細で器用な手をしていた。味覚のセンスも必要なのだろうけど、繊細な器用さは、プロになれるかどうかの、境目だと、思う。
E子は、なにせ、習い事好きだ。でも、お菓子教室には行かなかった。
張り切って経験を教えた甲斐があったんだなぁ、とわたしは思っていた。
友人5人が見守る中、E子は、バターケーキをささげ持ってきた。ホワイトチョコを薄く削ってのっけてあるとても美しいケーキだった。
切るのはもったいないね、とみんなでわいわい言いながら、容赦なく、切り分けて食べた。
甘くて美味しくて、話しも弾んだ。
みんなの賞賛を浴びたE子が「こんなかで、お菓子作りをするのってknoriだけだよね」と言い、「この本、すごく良いよ」、とわたしに見せた。
ビックリした。その菓子本は、半年前、「絶対に、この菓子本を買いなさいよ。」とわたしが勧めた本だった。簡単なお菓子から難易度の高いものまでよく考えられた本で、これがあれば、E子は、お菓子作りを続けるだろうと、思ったのだ。
人って、してあげた事は忘れないけど、してもらった事は忘れるんだなぁ。。
この様子を目ざとく見ていたわたしの親友から、早速電話がかかってきた。
彼女いわく、
「knoriは利用されたんだよ。E子は、友人宅にケーキを持って行こうとして、菓子本を開いたはいいけど、訳がわからないから、knoriに手伝わせたの!」
そういうもんかぁ、と思った。
わたしは、二十歳の時、人生の趣き(味わい)を知ったのだった。
#難易度0
チョコケーキ
溶かしたチョコレートとバターを混ぜ、卵と薄力粉も入れて、ただグルグル混ぜるだけ。それを、マフィンの型に流し入れて焼く。
上にのっけた冷凍フルーツの酸味と、チョコはとっても合う。
#難易度0
フロランタンやビーネンシュティッヒの変形バージョン
ブリオッシュ生地を、天板の大きさに伸ばし、キャラメルソースとナッツを絡めたものをのっけて焼く。
パンは、繊細な作業はぜんぶ、イースト菌がやってくれる。
形を作ったら発酵を待てば良いだけ。パン作りは、より簡単だと思う。