デヴィッド・ヴェンド監督、ティムール・ヴェルメシュ原作、ドイツの風刺映画2015年作。
「ゲッベルスに似ている」と呟いたヒトラーは女性TV局長を評価した。
ちょこっと可笑しかった。ところどころ、笑ってしまうところはあるけど、総じて、どきどき、ときどき、怖い。という映画。
アドルフ・ヒトラーが現代ドイツにタイムスリップ。周りは彼を芸人と思い、祭り上げていくんだけど、本人は虎視眈々と政治家への道を狙っている…。
映画の前半はヒトラーがドイツ国内を巡りながら、人々にインタビューしたり、話し合ったりする、というドキュメンタリータッチになっていて、後半はTV局内で、どんどんお笑い芸人として売れていく様子が捉えられている。
ヒトラーが新聞を読みふけり、様々な地方の人々と接するにつけ、彼は「1930年代にそっくりだと」と言う。つまり、経済が停滞し、難民が多数流入して、人びとは不平不満を抱えている。それを彼は「チャンスだ」と言うんですね。
面白かったのは、ドイツの政党などとも話すんだけど、彼は「緑の党」が良い、と。
それは、ナチスは環境保護を訴えてたし、ハイデッガーもそこに何らかの理想を見て応援演説しちゃったんですよね…。
けれど、ヒトラーの環境保護云々は、西欧文明に対する憎しみがあったと思うなあ。全てぶっ壊して、美しい国土さえあればそれで満足だった、と思わせるとこがある…。
まあ、そいで、沢山の人々やNPOや政党と話して、彼は、すんごいすんごい優秀なポピュリストなわけ!みんな惹きつけられる。あ、ネオナチのことはヒトラーが馬鹿にするものだから、ケンカみたいになった。
それで、後半のTV局の話しですよ。ヒトラーは何一つ彼の主張を誤魔化していない。TVスタッフたちは彼の話に初めは鼻白むんだけど、オチが現状をこき下ろす、とか、皮肉とかになっているものだから、お笑い芸人と信じて疑わない。
というか、彼らの関心は視聴率を取れるかどうか、な訳で、この危険な世紀の破壊者をどんどん売り出してしまう。またね、半端なキャスター程度じゃ彼に論戦で敵わない。
で、視聴者はどう受け取ったか?
好感度抜群で、みんな彼の動画を面白おかしく加工して拡散。超人気者!そしていつの間にかコアな信望者が出てくる…。
この映画を作ったのがドイツっていうのが、偉いなあ、ドイツって思う。
何らかの危機意識があるんだろうと思う。
なにせ、ヒトラーは、外部的な敵を掲げ、国民を結束させ、寛容さはドブに捨て、多様性を切り捨て、同質的な国家を作り出したんだから。